リブコムズ編集室

ライブカメラ×観光情報サイト「LIVECOMBS」の制作裏側や普段のことを二人で書いています。https://livecombs.com/

【あとがき】SLもおかが久しき昔を駆け抜ける

SLもおか ”Sweet Lady Moka”|真岡市のライブカメラ観光の制作秘話です。

 

蒸気機関車のSLはSteam Locomotiveの頭文字だ。今回はそれに合わせてメインタイトルとコラムの各タイトルを全てSLで統一した。

メインタイトルの「Sweet Lady」は読んでの通り、ラッシーといちごのことであるが、実はもう一つ指しているものがある。

私の初恋は13歳の頃であったが、その相手がなんと真岡市出身なのである。些細な冗談でもよく笑ってくれて、人の読書のジャマをよくする明るい子だった。たくさん話をしたり、テストの点数を競い合ったり、ここでは語り尽くせないほど様々な思い出があるが、やはりどんなシーンも記憶に焼き付いているのは彼女の笑顔である。

彼女とは中学と高校を共にしたのだが、高校に入った頃からうまく行かなくなってしまい、結果を言えば実らない恋であった。甘酸っぱいようでほろ苦い、未熟ないちごのような味である。彼女の姿も「仰げば尊し」を聞いたのを最後に見かけていない。

その後も違う恋をしたが、真岡市にこんなタイトルをつけてしまうのは、どこかに未練があるからなのだろうか。

ちなみに、彼女の名前はLIVECOMBSの本文中に隠しておいた。だが読み返さなくていい。探すんじゃない。そっとしておいてくれ。

 

さて、文中でラッシーの名がスコットランド語に由来すると書いたが、いくら博識な読者諸君でもスコットランド語に馴染みがある方は少ないと思われる。

かろうじて馴染みがありそうなものは「Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン)」くらいだろうか。

これはスコットランドの準国歌にもなっている曲で、「仰げば尊し」と並んで卒業式の定番である「螢の光」の原曲でもある。

ちなみに「Auld Lang Syne」の意味は英語でいえば”old long since”。日本語では「久しき昔」だ。

今回、ラッシーを本文で使用したのには理由がある。

執筆するにあたって真岡市について調べた際、同市をSLが走っていることを知ったのだが、SLといえば石炭、石炭といえば……この連想ゲームの中で思い出した昔の記憶がある。幼児だったか小学生だったかの幼少の頃、テレビで放送されていたアニメのワンシーンだ。

ある男の子がスコップで地面を必死に掘り進んでいく。どうやら男の子にはどうしても石炭を掘りだす必要があるらしい。もうずいぶんと掘った。汗と泥にまみれ、息もあがっている。それでも男の子は地面を掘り続ける。しばらくすると、ガツンと硬いものがスコップに当たる。急いで掘り出してみれば、石炭がひとつだけ見つかった。ようやく石炭を手に入れた男の子だったが、その瞬間、疲れからかその場に倒れ込んでしまう。ベッドの上で目を覚ました男の子は初老の男性から労いの言葉をもらう。というものだ。

気になったので何のアニメかを調べてみると、世界名作劇場の『名犬ラッシー』の最終話あたりということがわかった。

それでラッシーを使おうと決めたのだが、『名犬ラッシー』で男の子が掘り当てたのは石炭ではなく化石だという。石炭を探していたのは間違いないのだが、やはり幼少の記憶であるが故に勘違いしていたのだろう。

ちなみに、私はこのシーンだけを半端に覚えていたせいで、石炭は1個を掘り出すのにぶっ倒れるほどの労力が必要な、大変希少なものであると勘違いをしていた。

アメリカの鉄道史には「枕木ひとつひとつの下にはアイルランド人の死体が埋まっている」という言葉があるが、私にとっては「石炭ひとつひとつには発掘作業者の苦労が詰まっている」という認識だったのだ。

そんな幼少の私の目には、希少で大事な石炭を湯水のごとくボイラーに放り込んでいくSLは実に罪深い存在に映ったのであった。

幼少の頃に見た石炭にまつわるアニメについてもうひとつ。

スタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』にも石炭が登場した。

八百万の神が疲れを癒しに来る湯屋で、ススワタリ達が湯を沸かすためのボイラーにせっせと石炭を投げ込んでいた姿はなんともかわいらしく、同映画の見どころのひとつでもあるだろう。

しかし、その後のシーンで湯婆婆が千尋に対して言い放った「仔豚にしてしてやろう。石炭、という手もあるがね?」という脅し文句のおかげで、幼少の私は石炭1個と人間は同じ価値であるという認識をしてしまった。

石炭は高価なものという勘違いを強めたもうひとつの要因である。

 

栃木県にはSLもおかの他にもうひとつSLが走っている。温泉地として人気が高い鬼怒川温泉を走る「SL大樹」だ。

私は家庭教師として鬼怒川温泉に行っていたことがあるので、SLの音はだいぶ耳にしたものだ。

SLの走る音は町のどこにいても聞こえてくる。

「化学反応式の書き方は」――ポォーーーーー!

「二つの三角形は相似だから」――ピュイッーー!

「なぜexcitingじゃなくてexcitedを使うのかは」――ポッポッポッポッポッポッ!

SLは時報のような存在だ。

しかし、SLが走るということは、音や煙などに関して、鉄道会社と沿線住民との、相互の配慮と理解の上に成り立っていることを我々旅人は覚えておこう。

SLが走る街に訪れても、興奮のあまり暴走機関車と化すことがないよう心掛けたい。